神奈川腎炎研究会の歴史と特徴

第6代目代表世話人 虎の門病院分院腎センター内科 乳原善文

1. はじめに

永らく日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社の支援を受けて発展継続してきた神奈川腎炎研究会が新たに医師主導の体制で継続することが決まり寄稿を求められました。小生がその任に堪えうるものか否か,はなはだ当惑しておりますが,懇請黙し難くここに一文を草するものであります。小生がこの研究会に参加したのは1990年の初頭でした。並み居る神奈川県の腎臓内科の精鋭が集う会でありなんとまあ賑やかな研究会である事かとびっくりしたものでした。中途半端な知識ではとても太刀打ちできない諸先輩の年輪を感じたものでした。20年も30年もかけて培われてきた諸先輩方の知識は生半可ではなく,さらなる知識と経験の集積習得をするようにとの激励を感じたものでした。そして30年が経ち当研究会の第6代目代表世話人に指名されてしまったのに驚きました。振り返ると小生は30年間休まず年2回のこの研究会に出席し続けた結果であると知らされました。当初は議論になっている内容に到底ついてゆけずいつの間にか眠けに襲われ白日夢になっていました。しかし部下の若い医師たちに発表させる立場になり,予期もしない質問が飛んできた時は冷や汗をかいたものでした。それをくり返すうちに一例一例丁寧に考察する習慣は植えつけられ,以前なら返答に困った問題への回答が30年もたつとできるようになったのです。似ているなと思われた症例もよく比較してみると実は全く違うこともわかったり,当時確かと思われた概念が時代の変遷でその解釈が変わることも多々ありました。大切なことは事実を正確に記載して残すことで,後世になって正しい解釈が可能になることもあるということです。遺伝性疾患のうちで最も多い常染色体優性多発性嚢胞腎の同じ優性遺伝性の遺伝子を受け継いだ患者同士でさえその多彩性に驚くぐらいですから,遺伝性のない疾患では同じ診断名が得られたとしてももっと多彩性があってもおかしくないということになります。一つの疾患単位として認められた疾患名をつけることに満足せずに1人1人の患者の特性を尊重することも大切であることをこの研究会より学びました。

2. 研究会の始まり

日本腎臓学会の理事長であった上田泰先生(東京慈恵会医科大学第2内科教授)が退職された後,神奈川県衛生看護専門学校付属病院に赴任された際に,日本腎臓学会の根本でさる腎生検に基づく腎炎研究を神奈川県において開花したいと希望され,腎生検が可能な主要施設に呼びかけて出来上がったのが本研究会であった。代表世話人は上田泰先生,世話人として越川昭三先生(昭和大学藤が丘病院),前田貞亮先生(関東労災病院),三村信英先生(虎の門病院分院),石田尚志先生(聖マリアンナ医科大学),丸茂文昭先生(北里大学腎臓内科),堺秀人先生(東海大学),出浦照國先生(昭和大学藤が丘病院),藤島智先生(横浜市立大学)の9人での船出であった。

3. 病理コメンテーターの導入

第1回は1984年に開催。1回11演題の発表あり。以後年2回で開催された。主な施設より出された演題は力作ばかりであった。第11回より各施設からの発表に続き病理コメンテーターの専門医が腎生検組織を解説することとなった。第11回は御手洗哲也先生が病理コメンテーターを務められた。第12回より第20回までは坂口弘先生(慶應大学病理学教授)。第12回は荒川正昭先生(新潟大学医学部第二内科教授),山中宣昭先生(日本医科大学病理)が第18回から第35回まで,重松秀一先生(信州大学病理)が第18回から第60回まで。山口裕先生(東京慈恵会医科大学柏病院)が山中宣昭先生の後任として第36回から現在に至るまで。江原孝史先生(信州大学病理)が第35回と第37回のみ。城謙輔先生(東北大学)が重松秀一先生の後任として第61回より現在に至るまで担当されている。病理コメンテーターは第76回より本田一穂先生(昭和大学),金綱友木子先生(国際医療福祉大学)を加えて4人体制となりました。

病理コメンテーターの先生の意見が加わることで,自施設での病理診断が変わってしまうことがあり,複数の病理医の意見が異なることもたびたびであり,採取された腎生検標本からの読影がいかに難しいか,そして病理切片の診断に耐えうる作り方も議論され,一方でわずかな腎生検組織から多くのことを学ぶ機会になります。

4. 本研究会の素晴らしい特徴とは

(1) この研究会の特徴は第1回目より報告された症例の臨床経過と病理組織が腎炎症例研究という記録誌として残されていることであり,永らく協賛してきて頂いた日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社のご好意により,そのほとんどが保存されてきたが2021年度より会員のみがhome page上の会員専用ページをクリックすることで閲覧することができる。会員とは年会費を支払った者を指し年度内は有効である。

生々しい臨場感溢れる議論を振り返って垣間見ることが可能である。これはその後名古屋と東京でも開催されるようになった腎生検の研究会にない特徴であった。

(2) メーカーが主催であった多くの研究会では腎臓疾患には必修の治療薬に関する演題に対して制限が加わることが多くなり,日常臨床に役立つ議論ができにくくなっていました。今回よりそのような制限はなくなり学会と同様に自由な議論ができるようになります。

5. 歴代の代表世話人の紹介

石田尚志先生(聖マリアンナ医科大学)が第28回より2代目代表世話人になり,第36回まで務められ,小林豊先生(北里大学)が3代目代表世話人(第37回から第41回まで),原茂子先生が4代目代表世話人(第42回から第51回まで), 木村健二郎先生(聖マリアンナ医科大学)が5代目代表世話人(第52回から第61回まで), 小生(乳原善文)(虎の門病院分院)が6代目代表世話人となり第62回より務めている。

6. 歴代の世話人の紹介

歴代の多くの世話人を紹介することで本研究会を支えて来られた先生方に敬意を評したい。

塩之入洋先生第2回~第41回(藤島智先生の後任),小林豊先生第10回~第36回(丸茂文昭先生の後任),河西紀昭先生(北里大学小児科)第13回~第56回。小椋陽介先生(虎の門病院分院)第13回~第56回(三村信英先生の後任),遠藤正之先生(東海大学)第23回~第64回(堺秀一先生の後任),尼ケ崎安紘先生(済生会横浜市南部病院)(第23回~第42回),笹岡拓雄先生(横須賀共済病院)第23回~第30回,佐藤昌志先生(帝京大学溝口病院→菊名記念病院)第23回~第57回, 吉田義幸先生(横浜市立大学 小児科)第24回~第31回,大和田滋先生(聖マリアンナ医科大学)第28回~第36回(石田尚志先生の後任),原茂子先生が第28回~第41回(小椋陽介先生の後任),東海林隆男先生(横須賀共済病院)が第31回~第46回(笹岡拓雄先生の後任),小沢潔先生が(平塚共済病院)が第32回より加わり(~第44回), 川口良人先生(神奈川県衛生専門学校附属病院)が第33回~第44回(松本先生の後任),林郁子先生(済生会横浜市南部病院)が第35回~第37回,鎌田貢壽先生(北里大学)が第37回~第62回(小林豊先生の後任),木村健二郎先生(聖マリアンナ医科大学)が第37回~第51回(大和田滋先生の後任),小林修三先生(湘南鎌倉総合病院)が第37回より加わり,平和伸仁先生(横浜市立大学附属市民総合医療センター)が第42回より,吉村吾志夫先生(昭和大学藤が丘病院)が第42回~第65回(出浦照國先生の後任),乳原善文が第43回~第61回(原茂子先生の後任),梅村 敏先生が第43回~第66回(塩之入洋先生の後任),海津嘉蔵先生(社保横浜中央病院)が加わり(第43回~第59回),宮城盛淳先生(済生会横浜市東部病院)が第43回~,松井克之先生(帝京大学溝口病院)が第45回~第76回(佐藤昌志先生の後任),長谷川俊男先生(県立汐見台病院)が第46回~第65回,福留裕一郎先生(横須賀共済病院)が第47回~第52回(東海林隆男先生の後任),生駒雅昭先生(川崎市立多摩病院)が第52回~第63回(小板橋靖先生の後任),田村禎一先生(横須賀共済病院)が第53回~第65回(福留裕一郎先生の後任),安田 隆先生(聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院)が第53回~第63回(木村健二郎先生のご推薦),佐藤武夫先生(川崎市立多摩病院)が第53回~第55回,中村信也先生(相模原協同病院)が第57回~第73回(河西紀昭先生の後任),今野雄介先生(川崎市立多摩病院)が第57回~第64回(佐藤武夫先生の後任),宇田 晋先生(川崎幸病院)が第58回~(佐藤昌志先生の後任),竜崎崇和先生(川崎市立井田病院)が第58回~第59回,岩崎滋樹先生(横浜市立市民病院)が第60回~,高橋英彦先生(神奈川県立こども医療センター)が第61回~,細川 緑先生(東戸塚記念病院)が第61回~(海津嘉蔵先生の後任),酒井行直先生(日本医科大学武蔵小杉病院)が第62回~第63回,波多野道康先生(横浜労災病院)第62回~第78回,星野純一先生(虎の門病院分院)第63回~第67回(乳原善文の後任),白井小百合先生(聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院)第63回~(安田 隆先生の後任),柴垣有吾先生(聖マリアンナ医科大学)第63回~第75回(木村健二郎先生の後任),佐野 隆先生(北里大学)第63回~(鎌田貢壽先生の後任),齋藤 陽先生(聖マリアンナ医科大学小児科)第64回~第69回(生駒雅昭先生の後任),大塚 智之先生(日本医科大学武蔵小杉病院)第64回~第67回(酒井行直先生の後任),井上嘉彦先生(昭和大学藤が丘病院)第65回~(吉村吾志夫先生の後任),和田健彦先生(東海大学)第65回~(遠藤正之先生の後任),田中啓之先生(横須賀共済病院)第66回~(田村禎一先生の後任),山本 裕康先生(厚木市立病院)第66回~第69回(汐見台病院長谷川俊男先生ご推薦),田村功一(横浜市立大学)第67回~(梅村 敏先生の後任),澤 直樹先生(虎の門病院分院)第68回~(星野純一先生の後任),篠﨑倫哉先生(新百合ケ丘総合病院)第68回~,常田康夫先生(藤沢市民病院)第69回~,中田泰之先生(厚木市立病院)第70回~第73回(山本裕康先生の後任),岡 真知子先生(湘南藤沢徳洲会病院)第70回~第77回),小此木 英男先生(厚木市立病院)第74回〜(中田泰之先生の後任),石倉健司先生(北里大学病院小児科)(中村信也先生の後任),市川大介先生(聖マリアンナ医科大学腎臓・高血圧内科)第76回〜(柴垣有吾先生の後任),第77回〜石井健夫先生(横浜第一病院),池田裕一先生(昭和大学横浜市北部病院こどもセンター),横地章生先生(関東労災病院),日髙寿美先生(湘南鎌倉総合病院腎臓病総合医療センター),神山貴弘先生(横浜労災病院)第79回〜(波多野道康先生の後任)

7. 現時点での世話人名簿 (2022年7月31日現在)

8. 2022年度 施設会員

9. 最後に

本研究会は主に神奈川県内の施設より演題を出して頂いて成り立っていましたが,実は他府県の先生方も多数参加される全国規模のものです。これまで希少疾患の発表が多く見受けられましたが,腎不全原因として一番多い糖尿病がらみ(diabetic kidney disease),リウマチ膠原病の腎症,腎移植関連,Onconephrology(抗癌剤化学療法に関する腎症),嚢胞性疾患,遺伝性疾患の演題も是非出して頂き,病理学的な議論のみならず腎症進展をいかに抑えるかといった治療の工夫も是非議論して頂けることを希望したい。

さらに透析医療が日常臨床の主体になっている先生方も是非参加していただき,ご自身の患者が腎不全になった病態をもう一度見直す機会になればと考えます。

長い間本研究会の支援をして頂いた日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社の関係者の方々に感謝申し上げます。

過去の発表の詳細は以下のhome pageを参照ください。
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